大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)95号 判決

上告人

宍戸一人

外一名

代理人

丹羽鉱治

藤井正博

被上告人

渡辺澄美子

代理人

安達幸次郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人丹羽鉱治の上告理由について。

原審の確定した事実によれば、上告人宍戸一人は、地方税法一一条の三第二項、同条の二第二項(以上いずれも昭和三四年法律第一四九号による改正前のもの。以下同じ。)の定めるところにより、訴外宍戸鉱業株式会社(以下単に訴外会社という。)を主たる納税義務者とする第二次納税義務者として指定された者であるが、北海道幌別町は、昭和三二年一月二三日、同上告人に対し、国税徴収の例による地方税滞納処分として同上告人所有の本件建物を差し押え、昭和三三年一二月二四日、被上告人を買受人とする売却決定をしたところ、東京地方裁判所は、これより先、同年八月二九日、訴外会社につき会社更生法に基づく更生手続開始決定をなし、昭和三五年四月八日更生計画認可の決定をしたというのである。

右事実関係のもとにおいては、幌別町がした前記売却決定は、会社更生法六七条二項に違反するとはいいがたい。すなわち、同項の定めるところによれば、更生手続開始決定があつたときは、決定の日から更生計画認可まで一年を超えるときでも、決定の日から一年間は、会社財産に対し国税徴収の例による滞納処分はすることができず、既にされている滞納処分は中止すべきものとされているのであるが、これは、更生会社の財産に対する滞納処分を制限したものであつて、その会社を主たる納税義務者とする第二次納税義務者の財産に対する滞納処分を一般的に制限するものではないのである。そもそも、主たる納税義務者の納税義務や財産は、第二次納税義務者の納税義務や財産とは法律上別個のものなのであるから、第二次納税義務者の納税義務が主たる納税義務者の納税義務に附従する性質を有し、かつこれを補充する性質を有するからといつて、主たる納税義務者の責任に制約を加えるにすぎない更生手続開始決定につき、第二次納税義務者の納税義務や責任に影響を及ぼすべきものではないからである。

もつとも、地方税法一一条の三第二項、同条の二第二項但書の規定によれば、同条の三に定める第二次納税義務者(以下単に第二次納税義務者という。)に対する財産の公売は、主たる納税義務者の財産を公売した後でなければすることができないのであるから、主たる納税義務者に対する更生手続開始決定の際、同人に対する滞納処分が開始されていないか、または開始されていても終了していない場合にあつては、会社更生法六七条二項の規定により主たる納税義務者の財産を公売することが許されない結果として、地方税法の前記条項により第二次納税義務者に対する財産の公売も許されないこととなるのであるが、主たる納税義務者に対する更生手続開始決定の際、すでに主たる納税義務者に対する財産の公売をへているなど同人に対する財産の公売があつたとみられる場合においては、同人に対し更生手続開始決定があつても、第二次納税義務者の財産を公売することは、地方税法の前記条項に何ら違反するものではない。

上告人は、第二次納税義務者の納税義務が主たる納税義務者の納税義務に附従する性質を有し、かつこれを補充する性質を有することをもつて、本件売却決定が会社更生法六七条二項の規定に違反する違法無効な処分であるというにとどまり、本件売却決定が地方税法の前記条項に違反すると認めうる事実については何ら主張立証するところがないのである。したがつて、本件売却決定が会社更生法六七条二項の規定に違反するとはいえないことは、既に説示したとおりである以上、本件売却決定をもつて違法な処分とすることはできないものといわざるをえない。原判決には、右と見解を異にする部分もあるが、本件売却決定を無効ではないとし、被上告人の本訴請求を認容すべきものとした原審の判断は、結局相当であつて、原判決には所論の違法なきに帰する。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例